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1.特許・実用新案 アーカイブ

2011年12月06日

自社が取得した特許権を他社に有料で使わせることはできるのでしょうか?

最近、ある自動車メーカーがシートベルトに関する特許をライバルメーカーに使わせるというニュースがあった。このように特許権については、他人に実施権を許諾することができる。実施権には「専用実施権」と「通常実施権」がある。

(1)専用実施権とは、一定の範囲内で、その特許発明を業として独占的に実施することができる権利である。「独占的に」であるから、専 用実施権を設定した範囲においては、特許権者であっても勝手に実施すれば専用実施権の侵害になり、その特許権者は差止めや損害賠償を請求されることにな る。

(2)通常実施権とは、一定の範囲内で、その特許発明を業として実施することができる権利である。通常実施権は単に(独占的にではなく)特許発明を実施することができるものであるから、特許権者が通常実施権を設定した範囲において、特許発明を実施しても通常実施権の侵害にはならない。

(3)実施権の範囲は、期間的、地域的、内容的な面で限定することができる。
期間的限定とは例えば3年間というように期間を限ることをいい、地域的限定とは例えば静岡県というように地域を限ることをいい、内容的限定とは例えば自動車 にもオートバイにも使用できる発明について自動車だけに限ることをいう。

(4)実施権を設定するには、まず設定契約を行う。この設定契約を行うには、通常契約書を交わすことになる。専用実施権は特許庁に届出をして特許原簿に登録されることが、その効力発生の条件となる。通常実施権は特許庁に届出をしなくても、契約だけで効力が発生する。

実用新案登録出願と特許出願のどちらを選んだらよいのでしょうか?

商品のライフサイクルが短く、早期に権利化したい場合には実用新案登録出願を選択すべきである。但し、対象によっては実用新案登録が認められないものがある ので注意が必要だ。例えば、「食品の製造方法」のような「方法」は登録が認められない。また「化学物質」のような「物質そのもの」も登録が認められない。 これらは特許出願する必要がある。実用新案登録出願のメリットは、実態的な審査をしないで早期に権利が発生することである。デメリットは、権利期間が出願 日から10年と短く、また実態審査がされないので、本来登録されるべきでないものまで登録される危険性が高いことである。このため、実用新案権を行使する に先だって特許庁作成の技術評価請求書を侵害者に提示して警告する必要がある。技術評価書は請求の範囲に記載された考案の有効性についての見解を示すものである。

ビジネスモデル特許とはどのようなものをいうのでしょうか?

ビジネスモデル特許とは、新規なビジネスの手法をコンピュータシステムやネットワーク等の技術的手段を使用して具現した発明を特許の対象とするものである。 ビジネスモデル特許は、「電子商取引」、「金融ビジネス(銀行、保険、証券)」関連のものが中心である。その他、「電子マネー 電子決済等」もビジネスモ デル特許に含めることができ、「広告 財務 在庫管理」に関連した特許もビジネスモデル特許に含まれることがある。具体例としては、「自動車等の競売システム」の特許(第2733553号 特許権者:日本オートオークション(株))がある。この特許は中古車等の競売にコンピュータネットワークを利用してリアルタイムで買い手と売り手の双方が参加できる競売システムである。その他、具体例としては「広告情報の供給方法およびその登録方法」の特許(第2756483号 特許権者:凸版印刷(株))などがある。なお、平成13年1月10日の出願分から、媒体に記録されていないソフトウエア自体を「物の発明」として特許の対象とする特許庁の審査基準が発表された。

自社の製品が特許権を侵害しているという警告書が同業他社から送られてきました。どうすればよいでしょうか?

他社の特許権が必ずしも有効とは限らないので、「特許原簿」を入手して特許権が消滅していないか、権利者は誰か等をチェックする必要がある。次に「特許公報」 の【特許請求の範囲】を調べて、自社製品が特許権をほんとうに侵害するものなのかを検討する。特許権を侵害しているか否かは専門的にも難解な場合が少なく ないので、弁理士に相談するのが賢明である。警告書に対しては、自社の考えを相手に知らせる回答書を出すのが賢明だ。回答書は後に内容を証明することがで きる内容証明郵便で出すほうがよいだろう。警告書の内容にもよるが、回答書には当社の製品が特許権に触れている根拠を 教えて欲しいとか、当社の製品を検討したが特許権に触れていないと確信している旨、或いは製造中止をする旨等を記載する。さらに円満解決を希望するとか、 話し合いをもつ準備がある等と記載することもある。自社製品が特許に触れる場合は、特許調査を行い、その特許出願前に公知の事実、文献がないかを念のため 調べることも必要だ。特許無効審判を請求する場合の資料とするためである。また出願より前に自社が事業の準備をしていたか否かを調べる。先使用権が認めら れる場合もあるからだ。

プリンターメーカーがプリンターのインクカートリッジのリサイクル品輸入業者を相手に特許権侵害訴訟をおこして、その訴訟に勝ったという新聞記事を読んだのですが、リサイクル品に特許権の効力がどうして及ぶのですか?

リサイクル品にも特許権の効力が及び、侵害とされることがある。
まず、前提となる特許権侵害とは、正当な権限のない者が特許発明を業として実施することである。
(1)正当な権限のない者であるから、特許権者から実施許諾を受けた者(実施権者)は特許発明を実施しても特許権侵害とはならない。

(2)「特許発明」とは、文字通り特許された発明で、まだ特許が付与されていない出願中のものは
特許発明ではない。また、「特許発明」は出願中書類中の特許請求の範囲に記載された発明である。

(3)「業として」とは広く「事業として」の意味で、営利目的に限るものでない。従って、国営事業としてのダム建設にブルドーザーを使 用することは「業として」に該当する。また、個人的、家庭的目的で生産、使用等するものは「業として」ではない。従って、家庭でDVDプレーヤーを個人的 に使用することは「業として」ではない。

(4)特許発明の実施とは、例えば特許製品を生産(製造)、譲渡、使用、貸渡し等する行為をいう。特許権の効力はこれら生産(製造)、 譲渡等のそれぞれの行為に及ぶ。従って、正当な権限のない者が、特許製品であるプリンターのインクカートリッジを製造する行為、そのプリンターのインク カートリッジを販売(有償で譲渡)する行為のそれぞれが特許権を構成することになる。これを「実施行為独立の原則」という。

(5)空になったインクカートリッジにインクを再充填してリサイクルする行為が、特許権の侵害になるかどうかは簡単に判断することはで きないが、今回の判決ではリサイクル業者のリサイクル行為が、特許部分の上記(4)の(新たな)生産に当たり特許権の侵害になると判断している。

(6)近年においては省資源、環境保全の観点からリサイクルの重要性はますます高まっているが、それを理由に特許権侵害を正当化するこ とはできない。知的財産権をないがしろにすれば、安易な模倣、盗用を認めることになり、莫大な資金と労力をかけて新製品を開発する企業が激減して、わが国 の技術レベルが低下し、ひいては国力が衰えてしまうからである。

特許出願の審査はどのような手順で行われるのですか?

特許出願の審査は次のフローチャートに示す手順で行われる。


(1)特許出願
まず、特許庁へ特許出願を行う。特許出願をした日を特許出願日という。
特許出願書類は、出願人や発明者の住所、氏名(名称)等を記載する願書、 権利請求の範囲を記載する特許請求の範囲や、発明の詳細な説明を記載する 明細書、更に必要な図面から構成されている。特許出願を行うと、特許庁から背番号が付与される。これを出願番号といい、例えば「特願2009-12345」と表示される。

(2)出願公開
出願日から1年6ヶ月経過すると、出願公開がされる。出願公開とは、特許出願書類を誰でも見ることができるように公開することで、例えば、特許庁のホーム ページの特許電子図書館(IPDL)で見ることができるようになる。出願公開は、第三者の調査の便宜等の為に行われるものなので、その特許出願が審査され ているか否かは関係なく行われる。 上記のように、特許出願は1年6ヶ月経過しないと公開されないので、言い換えれば、出願日から1年6ヶ月経過する前までは、第三者は出願内容はもとより、 特許出願されたことも知ることはできない。

(3)出願審査請求
特許出願は、出願審査請求が為されたものについてだけ、審査官による審査がされる。出願審査請求を行うことができる期間を出願審査請求期間といい、出願日 から3年以内である。出願審査請求を行わないまま3年経過すると、その特許出願は取り下げられたものとみなされる。特許出願が取り下げられたものとみなさ れてしまうのだから、審査請求を必ずしなければならないのか?という質問をよく受けるが、審査請求をするかしないかは、出願人の自由だ。審査請求を行う割 合はおよそ50%であり、残りの特許出願は審査を受けることなく、取り下げたものとみなされる。
どうして特許出願のおよそ50%しか審査請求されないのかというと、審査請求期間の3年間のうちに、権利化を目指すのを止めたり、また、実務的には、所謂 「特許出願中」だけで十分であると考えたりする場合があるからである。審査請求は出願人以外の第三者も行うことができる。審査請求が為された特許出願は、 審査官によって審査される。

(4)特許査定
審査により、特許要件を具備していると判断されると、特許査定がされ、出願人に通知される。これを特許査定の謄本の送達といい、この謄本を受け取った出願人が、特許庁に特許料(登録料)を納付することによって、特許権が発生する。

(5)拒絶理由通知
審査官が審査した結果、その特許出願に拒絶理由があると判断された場合は、拒絶理由通知が出願人に送られる。この拒絶理由通知には、その理由と、更に拒絶理由の根拠となる資料(引例という)が記載されている。
拒絶理由通知を受け取った出願人は意見書や、補正書を提出して、特許請求の範囲等を出願当初の範囲で補正して反論することができる。意見書等を提出することによって審査官の考えが変わり、特許してもいいということになると、前述のように特許査定の謄本が送達される。

(6)拒絶査定
意見書等を提出しても審査官の考えが変わらない場合、又は意見書等を提出しない場合には、拒絶査定の謄本が送達され、この拒絶査定に対しては、拒絶査定不服の審判を請求して上級審で争うことができる。

どのような発明であれば特許庁の審査にパスできるのですか?

特許庁の審査にパスするためには、新規性、進歩性、先願であること、が必要である。

(1)新規性
発明が客観的に新しいことをいい、
① 特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明
② 特許出願前に日本国内又は外国において公然実施された発明
③ 特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明
であるときは新規性がないとされている。

①の公然知られた発明とは、不特定人(発明者のために秘密を守る義務の無い人)に知られることをいう。従って、例えば、会社にたまたま来たセールスマンに発明の内容を説明すれば、その発明は公然知られたことになる。
②の公然実施された発明とは、例えば、発明が包装装置で、その包装装置を展示会で運転した場合は公然実施されたことになる。
③の頒布された刊行物に記載された発明とは、例えば、新聞や雑誌に発明品が掲載された場合である。

(2)進歩性
その道の専門家(当業者)が特許出願時における技術水準から容易に考え出すことができない程度をいう。
例えば、ラジオとカセットテーププレーヤが別々に存在していたと仮定し、両方が一緒に存在するほうが便利だと考え、両方を接着剤でくっつけたというだけでは進歩性が無いとされると思われる。
これに対し、ラジオとカセットテーププレーヤとを一体にして、ラジオで受信した音声をカセットに録音できる機能を付加した場合は、進歩性があるとされそうである。

(3)先願
同じ内容の特許出願については特許庁に早く出した者勝ちであり、早く出した出願が特許される。これを先願主義という。
先に出した出願を先願、後から出した出願を後願といい、先願であるか後願であるかは特許出願同士だけでなく、実用新案登録出願との間においても判断される。

新製品を開発しましたが、技術内容が既存品の改良なので特許出願しても拒絶されるのではないかと考えてしまい、出願しようか迷っています。どのようにしたらよいでしょうか?

(1)特許出願するか否かを判断する場合に最も重要なのは、技術内容が企業にとって法的保護が必要であるか否かである。特許性が低いと思われる場合でも、その技 術が当該企業にとって法的保護が必要である場合は特許出願することもあり、また特許性が高いと思われる場合でも当該企業にとって法的保護の必要性がない技 術であれば特許出願する必要はないことになる。
特許されるか否かは専門的であり、その判断は専門家でも難しいことが少なくない。特許出願の審査において、拒絶の根拠となる証拠(以下、引例という。)は 必ずしも1件ではなく、複数の引例の存在を理由に拒絶されることが多い。すなわち、特許出願1件に対し引例Aと引例Bとが特許出願日より先に公開されてお り、引例Aの発明と引例Bの発明の両方が存在していることを理由に容易に考え付くものであるとされ、進歩性がないとされる場合がある。このように複数の引 例が組み合わされることを想定して特許性を判断することは容易ではない。

(2)対応策としては、先願・先登録調査を行う方法もある。特許出願は出願日から1年6ケ月を経過すると出願公開され、実用新案登録出願は登録されると公 開される。これらは特許庁で公開しているデータベースである特許電子図書館(IPDL)等を用いて検索することができる。従って、開発した技術内容と似た 内容の特許出願等があるかどうかを調査することも可能だ。ただし、上記したように特許出願は出願日から1年6ケ月経過して公開される。言い換えれば出願日 から1年6ケ月間は公開されず調査対象に含めることはできないので注意が必要だ。また専門家でも完全な調査は容易ではなく、調査費用が出願費用を上回るこ とも珍しくないので、調査は簡単なものにして出願を行うなどのケースバイケースの判断が必要である。

(3)特許出願を行い、審査請求を保留しておく手もある。特許出願は特許庁に提出しただけでは審査されず、審査請求をしたものだけが審査される。審査請求 を保留しておくことができる期間(審査請求期間)は出願日から3年である。従って、まずは特許出願を行い先願権を確保して、それから審査請求をするか否か を検討するという手もある。審査請求をしないまま3年経過すると、その特許出願は取り下げられたものとみなされる。但し、この取り下げられたものとみなさ れた特許出願(先願という。)より後に出された同じ内容の他人の特許出願は先願の存在によって拒絶されることになる。よって、特許出願は他人が同じ内容の 特許権を取得するのを阻止する効果もある。

参考文献
特許法概説 第13版 吉藤幸朔 著 熊谷健一 補訂 (有斐閣)

当社は工作機械メーカーですが、取引先の紹介で他のメーカーから特許権を買わないか(有償で譲渡を受けないか)という話があり、特許証と特許公報を提示され ました。提示された特許公報を見ると、当社が近い将来、製造・販売しようと考えている工作機械に関する内容なので、金額が見合えば特許権を買ってもいいと考えています。どのような点に注意したらよいのでしょうか?

(1)特許原簿を特許庁から取り寄せて、その内容を確認する必要がある。特許証を持っていても、それが必ずしも特許権者である証にはならないので、注意が必要だ。

①特許原簿でその特許権が存続しているか否かを確認する。
特許権は特許料(年金)を納付しなかったり、特許無効審判が請求されて、特許無効審決がなされたりすると消滅する。従って、特許公報を提示されたからといって、必ずしも特許権が存続しているとは限らない。
上記のように年金を納付しない場合には、特許権が消滅することになるので、年金が何年分納付してあるかも確認しておくべきである。
また、特許権の存続期間が何年残っているかを確認する。残存期間によって特許権の価値が異なるからである。特許権の存続期間は原則として特許出願の日から20年である。

②現在の特許権者が誰であるかを確認する。
特許権は移転することが可能であり、特許公報に記載された特許権者と異なる別の者が現在の特許権者になっていることもあるからである。
また、特許公報の記載では特許権者が単独になっていても、特許権の一部が他人に譲渡されて特許権が複数の権利者の共有になっていることもある。特許権が共 有に係る場合は、各共有者は他の共有者の承諾を得なければ、自分の持分であっても譲渡することができない等の制限を受ける。なお、各共有者は他の共有者の 承諾がなくても、特許発明を実施することができる。従って、自社が特許権の一部の譲渡を受けても、他の共有者による特許発明の工作機械の製造・販売を止め ることはできない。

③実施権が設定されていないかを確認する。

特許権には特許発明の実施を第三者に許諾する実施権を設定することができる。
実施権には専用実施権と通常実施権があり、専用実施権が設定された範囲では特許権者といえども特許発明の実施が制限されることになる。従って、特許権の譲 渡を受けても、自らが特許発明の実施をすることができない場合もあるので注意が必要だ。専用実施権は特許原簿への登録が効力発生要件とされているので、特 許原簿で確認することができる。
通常実施権は特許発明の実施を単に許される権利なので、通常実施権が設定されていても特許権者は特許発明を実施できる。また、通常実施権は特許原簿への登 録が第三者対抗要件となっている。従って、特許原簿に通常実施権設定の記載がなくても、通常実施権が設定されていないとは限らない。
専用実施権はもとより通常実施権が設定されているか否かは特許権の価値に大きな影響を及ぼすので、特許権者に実施権設定の有無を確かめる必要がある。

④ 質権が設定されていないか確認する。
質権者は原則として特許発明の実施をすることはできない。しかし、契約で別段の定めがある場合は質権者は特許発明を実施することができるので、注意が必要だ。
また、質権が実行されれば、質権者が特許権者となり得る。質権が設定されている特許権の譲渡を受けることはリスクが伴うので、特許権者に質権の登録を抹消してもらってから、特許権の譲渡を受けることが賢明である。

⑤その他、特許原簿には特許権移転の履歴、質権者の変更等の種々の情報が記載されているので、特許権の譲渡を受けないかという話があった場合に限らず、実施 権の設定を受ける場合、更に特許権を侵害している旨の警告書が送られてきた場合等には必ずチェックする必要がある。

(2) 特許請求の範囲によって特許権の効力の範囲を確認する。自社で製造・販売しようとしている工作機械が特許権の効力の範囲に入るものであるかを確認する必要がある。当該工作機械が特許権の効力の範囲に入らないものであれば特許権を買う必要がないからだ。
また、特許後においても訂正請求や訂正審判において、特許請求の範囲の内容が変わることもあるので、注意する必要がある。
特許権の効力に入るか否かの判断は専門的でかなり難しいので、弁理士の鑑定を受けることが賢明である。

(3)譲渡対象となっている特許権に関連する他の特許権、実用新案権、意匠権がないかを確認する。提示された特許権だけの譲渡を受けても他の特許権等の存在に よって工作機械の製造ができない場合もあり得るからである。なお、他人の特許発明を利用する場合は譲渡された特許発明の実施が制限を受けるので、この点も 注意が必要だ。

(4) 技術指導等が受けられるか否かを確認する。

特許権だけを譲り受けても製造上のノウハウ等があり、技術指導等がないと実際には工作機械を製造できない場合もあるので、特許発明の工作機械を実際に製造するために、どのようなものが必要であるかを検討する必要がある。

(5) 特許権の価格についても検討する。

当然のことであるが特許製品である工作機械を製造し、それを販売してはじめて企業は利益を得ることができるので、特許権の価格が適正であるかについても十分に検討する必要がある。

(6)その他

特許権の譲渡を受け、それに基づいてビジネスを行おうとする場合は、上記したように多くの難しい点があるので、弁理士、弁護士等の専門家に相談すべきである。
自社で開発した技術について特許出願した場合は、特許権者が製造ノウハウ、販売ルート等を持っていることが多いが、他人から特許権を譲渡してもらう場合にはそうでないことも少なくない。
うまい儲け話など滅多にないということを常に頭に置きながら、他社から特許権の譲渡を受け、それを活用することを考えて頂ければと思う。

佐藤食品工業の「切り餅」が越後製菓の特許権を侵害しているとして、損害賠償を認めたとのニュースを見ましたが、どのようなことなのでしょうか?

(1)今回、ニュースになったのは、知的財産高等裁判所(以下、知財高裁という。)の判決である。一審東京地方裁判所においては特許権を侵害しない旨の判決が出され、更に上級審である知財高裁で争われて一審判決が覆される結果となった。

(2)本件特許の特許請求の範囲の請求項1には、「焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である切餅の載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表 面に、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設け、この切り込み部又は溝部は、この立直側 面に沿う方向を周方向としてこの周方向に一周連続させて角環状とした若しくは前記立直側面である側周表面の対向二側面に形成した切り込み部又は溝部として、焼き上げるに際して前記切り込み部又は溝部の上側が下側に対して持ち上がり、最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされ ている状態に膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制するように構成したことを特徴とする餅。」と記載されている。

構成要件とは請求項に記載された内容のことで、この構成要件すべてを被告製品が具備していて特許権侵害が成立することになる。言い換えれば、原則として構成要件が1つでも抜けていれば侵害が成立しないことになる。

主な争点は、「切餅の載置底面又は平坦上面ではなく…複数の切り込み部又は溝部を設けたこと」の解釈である。

佐藤食品工業の主張は、本件特許は「載置底面又は平坦上面ではなく」は「載置底面又は平坦上面に切り込み部等が存在しない」ことを意味し、これを構成要 件としているのだから、「切餅の載置底面や平坦上面に切り込み部等が存在する」被告製品は特許権を侵害していないというものである。

越後製菓の主張は「載置底面又は平坦上面ではなく」は、「側周面に切込み部等が存在する」ということを明確にしている(強調している)だけであり、「側 周面に切り込み部等が存在する」被告製品は「切餅の載置底面や平坦上面に切り込み部等が存在する、しない」に拘らず、特許権侵害に該当するというものであ る。

一審では佐藤食品工業の主張が通り、控訴審では越後製菓の主張が通ったかたちになったが、今後の展開がどのようになるか興味深いところである。

2012年10月22日

報道等で「特許権の侵害」という言葉をよく聞きますが、そもそも特許権の侵害とはどのようなことなのでしょうか?

特許権の侵害がどのようなものであるかを説明するのは容易ではない。そこで、ごく簡単な事例で説明したいと思う。
特許出願の特許明細書には特許請求の範囲が記載されている。この特許請求の範囲に記載された発明(特許発明)が特許権の本体ということになる。
特許請求の範囲には請求項が記載され、この請求項は複数記載することが可能で、複数ある場合は【請求項1】、【請求項2】…と分けて記載されている。
仮に鉛筆について特許出願が行われ、特許庁の審査にパスして特許権が取得されたとして説明する。

特許請求の範囲には次のように記載されている。

【請求項1】
黒鉛を含んだ細長い形状の芯と、前記芯が挿入され固定された六角柱状の軸とから成ることを特徴とする筆記具。

この請求項1を構成要件毎に分けると、
A.「黒鉛を含んだ細長い形状の芯」
B.「前記芯が挿入され固定された六角柱状の軸」
となる。
特許権の侵害が成立するためには、他社の鉛筆(イ号鉛筆)が構成要件の全てを具備していることが必要である。言い換えれば、構成要件が一つでも欠落しているイ号鉛筆は、特許権を侵害しないことになる。

(例1) イ号鉛筆の軸が「丸棒状」である場合、特許権の侵害は成立するだろうか。
すなわち、イ号鉛筆の構成要件が、
A.「黒鉛を含んだ細長い形状の芯」
C.「前記芯が挿入され固定された丸棒状の軸」
である場合だ。
このイ号鉛筆については特許権の侵害が成立しないことになる。「六角柱状」と記載されている上記Bの構成要件を具備していないからである。

(例2) イ号鉛筆が、軸の一端に消しゴムを取り付けたものである場合はどうだろうか。
消しゴム付であること以外は、請求項1の構成要件A、Bを具備している。
すなわち、イ号鉛筆の構成要件が、
A.「黒鉛を含んだ細長い形状の芯」
B.「前記芯が挿入され固定された六角柱状の軸」
C.「軸の一端に取り付けられた消しゴム」
である場合だ。
このイ号鉛筆については特許権の侵害が成立することになる。Cが加わっても、イ号鉛筆は請求項1のすべての構成要件(A、B)を具備しているからである。

(例3) イ号鉛筆の軸が「五角柱状」である場合はどうだろか。
イ号鉛筆の構成要件が、
A.「黒鉛を含んだ細長い形状の芯」
C.「前記芯が挿入され固定された五角柱状の軸」
である場合だ。
このイ号鉛筆については特許権の侵害が成立する可能性がある。均等論という考え方があるからだ。上記したように原則論を適用すれば、イ号鉛筆が請求項の構成要件の全てを具備しなければ特許権の侵害が成立しない。しかしながら、この原則論を適用すると、特許権者の保護が不十分となってしまう場合がある。これを防止しようする考え方が均等論だ。均等論は、構成要件が多少違っても同じ作用効果を発揮するものである場合は、特許権の侵害の成立を認めるというものである。軸が「六角柱状」でも「五角柱状」でも、鉛筆が転がり難く、机などから落ちてしまうのを防止できるという同じ作用効果を発揮すると判断されるので、均等論が適用される可能性があると思われる。
ただし、均等論はあくまでも例外的な考え方であり、実際の特許権侵害訴訟においては簡単には認められないので注意が必要である。

特許権を侵害するか否かの判断手法についてごく簡単に説明したが、実際の判断は相当に難しいことが多く、専門家に相談することが必要である。

2014年11月17日

他社が開放している特許権を利用して自社製品を製造しようと考えていますが、その場合の注意点を教えてください。

(1)他人の特許権を利用するためには自社が合法的に特許発明を実施することができるようにする必要がある。すなわち、特許権者に実施権を許諾してもらうか、特許権を譲渡してもらうかである。
(2)実施権の許諾について説明する。実施権とは特許権者から契約で定めた範囲で特許発明の実施が認められた権利で、専用実施権と通常実施権がある。
 ①専用実施権は設定された範囲においては専用実施権者が特許発明の実施を独占的に行うことができる権利であり、この範囲では特許権者といえども特許発明の実施が制限されることになる。例えば、契約日から3年間、静岡県内において、特許製品を製造・販売することを内容として専用実施権を設定した場合、この範囲においては特許権者といえども特許発明の実施が制限されることになる。
 ②通常実施権は専用実施権と異なり、特許権者の特許発明の実施が制限されない。従って、通常実施権を設定した範囲でも、特許権者が特許発明を実施することが可能である。

(3)特許権は有償、無償を問わず譲渡することが可能である。ただし、特許権の譲渡は特許原簿に登録されることが効力発生要件となるので、特許庁に対する手続が必要である。この手続には譲渡証などを添付する。

(4)注意点
 ①上記実施権の許諾、特許権の譲渡に先だって、製造しようとしている製品が当該特許権の権利範囲に入っているかを検討、確認する必要がある。そもそも特許権の範囲外であれば譲渡も実施権の許諾も必要ないからである。これは専門家に相談する必要がある。
 ②特許製品を自社の技術で製造できるのか等、ビジネスとして成り立つか否かを検討する必要がある。
 例えば、中小企業が大企業の特許権について譲渡等を受けても、ノウハウが無くては製造できない製品では本末転倒である。製造できたとしても数が少ない場合などコストが高くついて買い手がないこともある。また、製品を造っても販売ルートが無くてはビジネスにならないので、自社で販売可能な製品であるか否かについてもよく考える必要がある。
 当たり前のことであるが特許権を譲渡してもらっただけで利益が上がるわけではないので、専門家に相談しながらビジネスとして成り立ち得るかを事前によく検討すべきだ。

2015年10月21日

企業の従業員の発明はすべて職務発明になるのでしょうか。また、職務発明についての規定が改正されると聞きましたが、その内容はどのようなものなのでしょうか。

企業の従業員の発明のすべてが職務発明になるわけではない。従業員の発明は次のように分けられる。
「職務発明」
 会社の業務範囲に属し、発明をするに至った行為が従業員の現在または過去の職務に属する発明のことである。
 例えば、自動車メーカーの研究員が燃費のよいエンジンの発明をした場合は職務発明に該当する。
「業務発明」
 会社の業務範囲に属し、職務発明ではない発明のことである。
 例えば、自動車メーカーの営業マンが燃費のよいエンジンの発明をした場合は業務発明に該当する。
「自由発明」
 会社の業務範囲に属しない発明のことである。
 例えば、自動車メーカーの研究員が芯の折れ難いシャープペンの発明をした場合は自由発明に該当する。
(職務発明規定)
 原則的には、発明者が「特許を受ける権利」を有し、「特許を受ける権利」を発明者から会社に譲渡して、これに基づいて会社が特許出願をする内容となっている。
 今回の特許法改正のポイントは、職務発明については勤務規則等で「特許を受ける権利」をあらかじめ会社に取得させることが可能となったことである。すなわち、職務発明についての「特許を受ける権利」を発明者→会社というルートをとらず、いきなり会社が取得することを可能とした。注意すべき点としては、勤務規則等で定めた場合にのみ上記の取り扱いができるのであって、定めていない場合には「特許を受ける権利」は発明者→会社というルートで譲渡する必要がある。

2016年11月01日

ライバル企業のカタログを見ていたところ、「PAT」「PAT.P」と記載されています。これらはどういう意味なのでしょうか。

「PAT」はPatent、すなわち特許を取得しており、特許権を侵害している者に対し法的手段をとることができる状態であることを意味する。「PAT.P」はPatent pending、すなわち特許出願中であり、まだ権利化されておらず、すぐに法的手段をとることができる状態ではないことを意味する。

(出願)
 出願とは特許庁に申請書類を提出することを言う。これで「PAT.P」ということになる。
(出願公開)
 出願から1年6ヶ月を経過すると、原則として出願された内容が公開される。
(審査請求)
 特許出願は申請書類を提出しただけでは審査されない。出願とは別に審査請求を行って、はじめて審査が行われる。審査請求は出願後、3年以内であればいつでも行うことができる。この3年間を審査請求期間といい、審査請求期間内に審査請求を行わないと、その出願は取り下げられたものとみなされる。従って、「PAT.P」ではなくなる。
 3年以内に審査請求を行う率、すなわち審査請求率は50%強で、言い換えれば50%弱の出願が審査を受けない。折角出願したのに審査を受けないのは勿体ないと思われる方もいるかもしれないが、例えば出願後3年を経過するまでに、出願対象の技術が旧式なものとなって、もはや特許取得が必要なくなることもある。また、同業他社に対するけん制だけを目的とする、すなわち「PAT.P」を表示可能にするための特許出願もあると思われる。
(特許査定)
 審査請求を受けて、審査官が出願の内容を審査し、審査にパスすると特許査定が送られてくる。そして、出願人が特許料を納付すれば特許が付与されて、「PAT.P」から「PAT」になる。
(特許異議申立)
 特許公報を見て異議がある人は特許異議申し立てをすることが可能である。
(権利満了)
 特許は特許料を納付し続ければ出願日から20年間存続するが、途中で特許料の納付を止めることもできる。例えば、特許料を10年分納付したところで止めて、特許を消滅させることも可能である。不要になった特許についてまで特許料を払い続けるのは無駄なので、保有している特許が本当に必要なものであるか否かを見直すことが必要だ。
(拒絶理由通知)
 審査の結果、特許を付与できないということになると拒絶理由通知が送られてくる。
(意見書・補正書)
 拒絶理由通知を受け取った出願人は審査官の考えに反論する意見書や出願内容を当初の範囲でやりくりする補正書を提出して反論することが可能である。意見書や補正書を読んで、審査官が考えを変えれば前記した特許査定が送られてくる。
(拒絶査定)
 意見書等を提出しても審査官の考えが変わらない場合には拒絶査定が送られてくる。この拒絶査定に不服である場合は審判の請求を行うことができる。審判で争っている間は「PAT.P」ということになる。審判で争わない場合には拒絶査定が確定し、このようになると「PAT.P」ではなくなる。

 ライバル企業の出願が「PAT.P」であるのか「PAT」であるかを正確に把握するためには専門家に相談すべきであり、素人判断は禁物である。
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2017年04月20日

特許制度と実用新案登録制度の違いは何でしょうか。

技術的アイデアの法的保護を図る制度である点で共通するが、その仕組みが種々の点で異なる。以下、両制度の違いを表に示す。

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注1)例えば、プラスチック製品の射出成形用金型、射出成形方法のいずれも保護対象になる。
  2)プラスチック製品の射出成形用金型は保護対象になるが、射出成型方法は保護対象にはならない。
  3)出願審査請求とは、特許出願について審査を開始するための手続のことで、出願日から3年を経過するまでに出願審査請求を行わない場合には、その特許出願は取り下げられたものとみなされることになる。出願審査請求率は50%強である。
  4)新規性とは、発明が客観的に新しいことをいい、その判断基準は特許法に規定されている。
  5)進歩性とは、その道の通常の専門家(当業者)が、特許出願時の技術水準から容易に考え出すことができない程度をいう。
  6)方式的要件、基礎的要件とは、書類の形式的な要件のことで、簡単に言えば所定の書類が整っていれば、実用新案登録が認められることになる。特許出願と異なり、新規性、進歩性等の実体審査は行われないで、実用新案登録がされる。
  7)実用新案技術評価書とは、特許庁による考案内容に対する評価を示したものである。実用新案技術評価書には新規性、進歩性等に関する判断結果が記載されている。この判断結果が実用新案権者にとって有利なものでなければ、実際には権利行使は難しいことになる。

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