産業財産権Q&A

Q24

特許権者が第三者に特許発明の実施を許諾する実施権についての特許法等の改正がされると聞きましたが、どのような内容なのでしょうか?

A

(1) まず、実施権について説明する。実施権には専用実施権と通常実施権があり、法人、個人のいずれもが専用実施権者や通常実施権者になることができる。 専用実施権は、特許権者が第三者に特許発明の実施を許諾することによって生じる独占排他的実施権である。 通常実施権は専用実施権のような独占排他性はなく、特許法等の規定に定められた条件を満たすことによって生じる「法定実施権」、特許庁長官等の裁定によっ て生じる「裁定実施権」、および特許権者等が第三者に特許発明の実施を許諾することによって生じる「許諾実施権」がある。これらの通常実施権のうち「許諾 実施権」が最も多いので、本稿では通常実施権については「許諾実施権」に絞って説明する。 専用実施権と通常実施権は、地域(例えば静岡県内)、期間(例えば2008年9月から2011年8月までの間)、技術分野(例えば特許発明の装置を半導体 製造にのみ用いる)、実施料(例えば売上の3パーセント)等、許諾する範囲(条件)を決めることができる点において共通するが、次の表に示すように種々の 相違点を有する。

 

専用実施権と通常実施権

 

(2)現行法の下においては、特許権を対象とした専用実施権、通常実施権のみ特許庁に登録することが可能である。すなわち、特許出願を行い、審査にパス し、特許料を納付して特許権が付与された後でなければ、実施権を特許庁に登録できない。従って、特許が付与される前の特許出願段階では実施権を登録するこ とができない。上記表に示したように、専用実施権は特許庁への登録が効力発生要件であり、通常実施権は特許庁への登録は第三者対抗要件である。 近年では知的財産を売買するビジネスが多く行われるようになってきており、また企業の買収・合併(M&A)も盛んになっている。これに伴って、特許権等の 産業財産権の移転が増加している。このような状況では、専用実施権と通常実施権を特許庁に登録しておかないと、実施許諾のライセンス契約をした特許権者で ある企業(ライセンサー)が特許権を他社へ譲渡したり、他の企業に買収された場合には、実施権者(ライセンシー)が従前のライセンス契約に基づいた事業継 続ができなくなってしまう問題がある。 ところが現行法では上述のように特許権が付与された後にしか実施権の登録を認めておらず、特許出願段階(特許成立前)においては実施権の登録制度がなく、 ライセンシーの保護が不十分である。 そこで、特許出願段階であっても実施権について特許庁への登録を認める「仮専用実施権」及び「仮通常実施権」の登録制度を創設する法改正を行った。 登録の効果として、「仮専用実施権」又は「仮通常実施権」の登録を行った実施権者は、登録した内容で第三者に対抗することができる。従って、特許出願人で ある企業が特許出願を第三者に譲渡したり、M&Aの対象になったりした場合でも、仮専用実施権者や仮通常実施権者(ライセンシー)は、新しく特許権者に なった企業に対しても実施権を主張でき、事業継続が不可能になるのを防止することができる。 また、「仮専用実施権」又は「仮通常実施権」を許諾した特許出願人である企業が破産した場合においても、破産法56条の適用により、破産管財人はライセン ス契約を解除することができない。