産業財産権Q&A

Q36

郵便事業株式会社が「ゆうメール」の名称を使用していることに対し、札幌にあるメールサービス会社が自社の商標権を侵害しているとして裁判を起こし、郵便事業株式会社に「ゆうメール」の使用中止を命じる判決が出たとの新聞記事を読みましたが、詳しい内容を教えてください。

A

(1)メールサービス会社は、商標「ゆうメール」の商標権を、第35類「各戸に対する広告物の配布,広告,市場調査,商品の販売に関する情報の提供,広告用具の貸与」について取得している(以下、本件商標権という)。この本件商標権を郵便事業株式会社が侵害しているというのである。
 商標登録の仕組みを簡単に説明する。商標登録は名称や図形からなる商標を漠然と登録するのではなく、具体的な商品や役務を指定して、この指定した商品や役務について商標を独占的に使用する権利を与えるものである。
 商品や役務については区分が決められており、この区分は第1類~第45類まである。第1類~第34類が商品の区分であり、第35類~第45類が役務の区分となっている。
 ここでいう商品とは「化粧品(第4類)」「菓子及びパン(第30類)」など、簡単に言えば品物である。ただし、「コンピュータソフトウエア(第9類)」は形がなくても商品である。
 役務とは、上記の「広告物の配布」即ち広告物を配布してあげるというサービスのことであり、第35類~第45類の役務の区分において使用される商標のことをサービスマーク(役務商標)という。例えば、サービスマークにはクロネコヤマトの宅急便の「クロネコの図形」等がある。「クロネコの図形」は荷物を運んであげるというサービスに使用されている。

(2)上記判決では、『郵便事業株式会社は「ゆうメール」又は「配達地域指定ゆうメール」を付した広告物を各戸に配布等してはならない。更に「ゆうメール」を付したカタログを廃棄せよ。』とされている。すなわち、「ゆうメール」又は「配達地域指定ゆうメール」は本件商標権の商標「ゆうメール」に同一・類似し、且つ、郵便事業株式会社が行っている行為が指定役務「各戸に対する広告物の配布等」に対し同一・類似であるから、本件商標権を侵害しているとされ、郵便事業株式会社に上記の行為を中止するように命じたのである。
 商標権侵害となるためには、商標が同一・類似で、しかも商標を使用している役務(商品)が同一・類似していることが条件となる。従って、同一商標を非類似の役務(商品)に使用しても商標権侵害とはならない。例えば、「ゆうメール」をレストランの役務である「飲食物の提供(第43類)」に使用しても本件商標権の侵害とはならない。ただし、他人の信用にただ乗りしようとする場合は不正競争防止法等を違反することがあるので注意が必要である。

(3)裁判において、郵便事業株式会社は、自らが行っているのは「荷物の運送」であって、「広告物の配布」は行っていない旨を主張したが、郵便事業株式会社が行っているサービスは本件商標権の指定役務(サービス)と類似するとして、この主張は認められなかった。すなわち、郵便事業株式会社の行為は使用している商標が同一(又は類似)で、且つ役務が類似しているとされたのである。

(4)また、郵便事業株式会社は本件商標権より先に「ゆうパック」を商標登録していたことを理由に本件商標権は無効である旨を主張したが、「ゆうパック」と「ゆうメール」とは非類似であるとして認められなかった。すなわち、役務が同一・類似でも、商標が非類似とされたわけである。このように、商標法上の抵触関係は商標だけでなく、役務(商品)との関係も比較して決められる。

(5)郵便事業株式会社は判決を不服として同日控訴している。
 どのような企業にとっても訴訟は負担であり、できれば避けたいものである。他人の商標権を侵害しないようにするためには、自らが実際に売る商品または行う役務について正確に把握し、この商品、役務について実際に使用する商標を出願して登録しておくことが必要である。