産業財産権Q&A

Q28

自社製品を輸出することを計画しており、輸出国において特許等の産業財産権による保護が必要であると考えていますが、外国で産業財産権を取るための仕組みはどのようなものなのでしょうか?

A

 外国で産業財産権を取得するためには、その外国へ出願を行う必要があり、取得した産業財産権の効力はその国だけに及ぶことになっている。従って、原則として産業財産権の取得を希望する国毎に出願を行う必要がある。
 法制や言語の違いから外国で産業財産権を取得するのは自国よりも大きな負担がかかる。そこで、この負担を軽減するための国際条約が締結されている。
 産業財産権に関する主な条約は次の通りである。

(1)パリ条約
 パリ条約は1884年に発効され、現在約160ヶ国が加盟しており、日本は1899年(明治32年)以来加入している。
 パリ条約は「優先権」、「内国民待遇」、「特許独立の原則」等について規定している。

「優先権」
 自国の出願の日から所定期間内に外国へ出願をした場合に、その外国の出願を自国の出願日に提出したものとして取り扱うことを「優先権」と言う。
 パリ条約で優先権を認めているのは、外国へ国内と同時に出願することは殆ど不可能であることから、出願人の時間的な負担を軽減して、外国で特許等を取りやすくするためである。
 従って、外国出願をする場合は、自国の出願の日から優先期間内(特許出願日、実用新案登録出願日から12ヶ月以内、意匠登録出願日、商標登録出願日から6ヶ月以内)に出願することが重要である。

「内国民待遇」
 産業財産権の保護に関して、パリ条約の同盟国において内国民(自国民)とパリ条約に加盟している国の外国人とを差別してはならず、平等に扱わなければならないことを「内国民待遇」という。
 従って、出願された発明の審査において、外国人にだけ審査の基準を厳しくすることはパリ条約違反となり認められないことになる。

「特許独立の原則」
 パリ条約の同盟国においては、各国の特許出願は独立して審査され、また特許の無効、消滅においても独立で、他の国において無効等にされたことを理由にして無効等にはならないことを「特許独立の原則」と言う。
 1つの国で特許が無効にされたことを理由に他の国でも無効にするのは、特許の国際的保護に欠け、出願人(権利者)にとって酷だからだ。

 

< パリ条約出願の経過 >

パリ条約出願の経過

 

 

(2)特許協力条約(PCT)
 PCTは1978年に発効され、現在約140ヶ国が加盟している。PCTは特許、実用新案についての条約であり、国際出願、国際予備審査等について規定している。

「国際出願」
 PCTに従って行う出願を「国際出願」といい、この国際出願は日本の特許庁へ1つするだけで、PCT加盟国に日本出願と同時に出願したのと同じ効果を得る ことができる。

「国際調査」「国際予備審査」
 この国際出願は権利取得を希望する国の審査を受ける前に、国際出願の内容と似た先行出願等があるかを調べる「国際調査」を受けることができる。また、国際 調査の結果を資料として特許を取得できそうかどうかの見解を示す「見解書」が作成される。この「見解書」に不満がある場合には、国際予備審査を請求して答 弁書や補正書を提出することにより反論することが可能である。そして、提出された答弁書や補正書の内容を踏まえて国際予備審査が行われ、その結果は「国際 予備審査報告」として通知される。

「国内段階への移行」
 国際出願について権利取得を希望する国で審査を受けるためには、国際出願を国際段階から権利取得を希望する国へ移行させる手続が必要である。この権利取得 を希望する国へ移行させることを、「国内段階への移行」と言う。
 国内段階への移行手続は、日本の出願日から原則として30ヶ月経過するまでに行えばよい。従って、出願人は国際調査、見解書、国際予備審査報告をもとに各 国で本格的な審査を受けるかどうか決めるための期間を得ることができる。
 国内段階への移行は翻訳文の提出等が必要であることから大きな費用が発生する。
上記のようにPCTを利用することで国際調査等の資料をもとに、しかも時間的な余裕をもって国内段階へ移行する否かの判断ができるので、無駄な国内段階への移行を行わないことで経済的なメリットを得られることもある。

 

 

PCT出願の経過 出願から国内段階への移行の手続きまで

 

参考文献:後藤晴男『パリ条約講話』(社団法人発明協会)
橋本良郎『特許協力条約逐条解説』(社団法人発明協会)