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ノーベル生理学・医学賞を授賞した京都大学の山中伸弥教授が発明したiPS細胞に関する技術について、京都大学は国内だけではなく外国にも多くの特許出願をしているとの報道がありましたが、外国出願はどのようにして行うものなのでしょうか?

山中伸弥教授のiPS関連の技術については京都大学が出願人となって特許出願を行っている。報道によれば約90件の特許出願を行っており、日本、ヨーロッパ、アメリカなど26カ国と一つの地域で特許が成立している。山中教授は特許を取る意義について、リーズナブルな金額で広く利用してもらいたいからだと仰っている。つまり、特許権を取得した企業があまり高額なロイヤリティ(実施料)を要求すると、特許発明が広く利用できなくなってしまうので、それを防止するために京都大学が特許取得に力を注いでいるということだ。

さて、外国出願は国際条約に従って行う必要がある。国際条約の主なものにはパリ条約と特許協力条約(PCT)がある。パリ条約に基づく出願は米国・中国等の各国特許庁に対し直接手続を行い、PCTに基づく出願はPCTで規定された受理官庁としての日本特許庁に手続を行うことができる。

(1) パリ条約
パリ条約は約130年前に締結されたもので、現在170ヶ国以上の国や地域が加盟しており、「優先権」、「内国民待遇」、「特許独立の原則」等について規定されている。
「優先権」
自国の特許出願の日から12ヶ月(意匠、商標は6ヶ月)以内に外国へ出願をした場合に、その外国の出願を自国の出願日に提出したものとして取り扱うことを「優先権」と言う。パリ条約で優先権を認めているのは、言語等が違う外国へ出願する出願人の負担を軽減して、外国で特許等を取りやすくするためである。従って、外国出願をする場合は、自国の出願の日から優先期間内(特許出願日、実用新案登録出願日から12ヶ月以内、意匠登録出願日、商標登録出願日から6ヶ月以内)に出願することが重要である。
「内国民待遇」
工業所有権(産業財産権)の保護に関して、パリ条約の同盟国において内国民(自国民)とパリ条約に加盟している国の外国人とを差別してはならず、平等に扱わなければならないことを「内国民待遇」という。
従って、出願された発明の審査において、外国人にだけ審査の基準を厳しくすることはパリ条約違反となり、認められないことになる。
「特許独立の原則」
パリ条約の同盟国においては、各国の特許出願は独立して審査され、また特許の無効、消滅においても独立で、他の国において無効等にされたことを理由にして無効等にはならないことを「特許独立の原則」と言う。審査の条件等は各国ごとに異なる。
特許独立の原則を定めているのは、例えば1つの国で特許が無効にされたことを理由に他の国でも無効にしてしまうのは、特許の国際的保護に欠け、出願人(権利者)にとって酷だからだ。


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(2) 特許協力条約(PCT)
「国際出願」
PCTに従って行う出願を「国際出願」といい、この国際出願では日本の特許庁へ出願書類を提出するだけで、権利取得を希望する多数の国に日本出願と同時に出願したのと同じ効果を得ることができる。言い換えれば国際出願は外国出願の束ということになる。なお、権利取得を希望する国のことを「指定国」と言う。
日本の特許庁へ国際出願する場合は日本語で行うことが可能であり、特許庁は国際的機関(受理官庁)として、国際出願を受理する。
「国際調査」「国際予備審査」
この国際出願は権利取得を希望する国の審査を受ける前に、簡単な事前調査である「国際調査」や、特許を取得できそうかどうかの予備的な見解を得るための「国際予備審査」を受けることができる。
「国内段階への移行」
国際出願について権利取得を希望する国で審査を受けるためには、国際出願を権利取得を希望する国へ移行させる手続が必要だ。この権利取得を希望する国へ移行させることを、「国内段階への移行」と言う。
国内段階への移行手続は、日本の出願日から原則として30ヶ月経過するまでに行えばよいので、出願人はこの間に各国で権利取得をするための審査を受けるかどうかの判断期間を得ることができる。


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(3)パリルートとPCTルート
パリルートを選択した場合は、特許出願の内容を、権利取得を求める国の言語に翻訳して、その翻訳文で出願する必要がある。従って、アメリカと中国へ出願する場合には英語と中国語の翻訳文を用意しなければならないことになり、出願当初に比較的大きな費用が発生することになる。
PCTルートを選択した場合は、国際予備審査報告等を入手した後に実際に権利取得をするために特許明細書の翻訳文を作成するかどうかを決めることができる。すなわち特許が取得できる可能性についての大よその見解とも言える国際予備審査報告等の内容を勘案し、更に費用をかけるどうかの判断を行うことができる点でメリットがある。
外国特許出願を行う場合パリ条約、PCTのどちらのルートを選択するかはケースバイケースであるが、出願する国が複数ある場合や出願する国を決めかねている場合はPCTルートを選ぶ方が都合のよい場合が多いと思われる。

今後海外へ進出する企業が益々増加することが予想されるが、進出した国において自社技術を護るためにはその国での特許出願が必要である。外国特許出願はパリルート、PCTルートの出願のいずれにおいても、日本特許出願の日から12ヶ月以内に出願しなければ「優先権」を主張できなくなる等の特有の注意点があるので専門家に相談する必要がある。